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レポート

日本のスタートアップの現状と成長戦略

2020.06.12

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大により、多くの企業が経済的な打撃をうけるなかで、これから起業や事業のスタートアップをしようとする方は、どのようにビジネスを進めるべきか。新型コロナ以前のパフォーマンスが通用しなくなったいま、起業家や事業者に求められているのは、資金を有用に動かすビジネスセンスはもちろんのこと、コロナ禍にこそ必要とされる事業を提案できる戦略的思考や発想力であるといえる。

新型コロナによって企業の価値観は変わる?

北海道札幌市の地域振興におけるスタートアップ支援を目的とした活動を展開するSTARTUP CITY SAPPOROは、2020年5月19日、「With/Afterコロナ時代のスタートアップ成長戦略」と題したウェビナーを開催した。スタートアップの現状理解やWith/Afterコロナ時代における資金調達、成長戦略の進め方などに関する議論を進めていく。

登壇者は、株式会社KVP・代表取締役社長/パートナーの長野泰和さん、株式会社デジタルガレージ・オープンネットワークラボ推進部の原 大介さん、株式会社日本総合研究所・リサーチ・コンサルティング部門研究員の井村 圭さんだ。

井村 圭さん(以下、井村):まずスタートアップの現状をお話しすると、これまでスタートアップに投資をしてきた有力企業60社のうち9割が、コロナショックの打撃をうけて投資を減らすという報道もあります。したがって、スタートアップの資金調達は、昨年よりも難しくなっています。しかし現在、大企業では業務のデジタル移行が検討され、また、デジタル領域で新事業を展開する意識が強まっています。さらに、いままで秘書や若手がデジタルツールを扱っていましたが、上部のマネジメント層も必然的にデジタルに携わるようになり、その強みや有効性に目覚めたことから、大企業のデジタル投資は進んでいます。ただ、社会の価値観が変わってきたとはいえ、具体的なアイデアやビジョンはまだまだ不足しています。そこで、With/Afterコロナ時代のスタートアップに求められるのは、社会の転換期における新事業の核となる内容なのではないかと思います。特に今後、大企業の意識はデジタルやオンラインといった新しい環境に合わせたサービスに集まるはずなので、そうした需要に応える事業の可能性は広がると思います。

そもそも国内のスタートアップの近況はいかに

井村:まずおふたりには、近年のスタートアップ業界の動向や国内外の状況に関して意見を伺いたいと思います。

長野泰和さん(以下、長野):10年ほど前からスタートアップ業界は様変わりしています。 弊社を例に挙げると、毎月60〜70名の新規の起業家に会っています。それも、募集をかけているわけではなく、紹介などインバウンドで。そのうち投資まで行き着くのは1〜2社ですが、起業家の数は大幅に増えていると感じます。そして、サービス内容に関しても、バリエーションが増えました。以前は、既存サービスをスマホ用に開発するといったディテールな内容が多かったのに対し、最近ではDXを活用して経済活動そのものをデジタル化しようとするなど、既存産業をリセットするような提案があります。

原 大介さん(以下、原):アクセラレーターの観点から言うと、弊社は10年目を迎えて20期目のバッチを終わらせていますが、毎年応募者数が増え、質も上がっているように感じます。アクセラレータープログラムは活況を呈していると思います。

井村:海外と比較した国内のスタートアップの特徴はありますか?

長野:弊社は海外にも一部投資していますが、例えばアメリカは桁違いの数の起業家や投資家がいるうえ、気性としても競争的で、共存共栄関係が非常に重層的です。一方、東南アジアはアメリカに比べて状況は緩やかです。日本のスタートアップの中には、アメリカ・日本で流行ったサービスのタイムマシンモデルで成功している方もいますが、まず日本で上場して足場を固めるケースが多いです。

原:アメリカとデット(負債)の観点で比べると、アメリカはデットではなく、上場まではエクイティ(株主)がメインで期間が長いです。一方、日本は創業者向けの融資が手厚く、金利も非常に安い日本は起業しやすいと思います。

新型コロナがスタートアップへ与える影響は、意外にもプラス?

井村:日本は起業環境が整っており、起業家の数も質も高まりつつあるとのことですが、新型コロナによるスタートアップへの影響や変化についてはどうお考えですか?

長野:意外かもしれませんが、コロナの影響下にあるにも関わらず現在、追い風を受けている好調の企業がたくさんあります。私が投資している企業のうち3割くらいは伸びていますし、過去に見せたことのないKPI(業績評価指標)の成長を見せているところもあるくらいです。なぜかというと、そもそもインターネット関連あるいはインターネットのみで完結する企業にしか投資していないので、当然オンラインの風潮がくれば流れに乗れるからです。しかし、大手企業が投資をしなくなったので、このあと新しく資金調達することのできない企業が増えていくことは危惧しています。個人的には、今後はオンライン社会の流れをより加速してくれるような企業に投資したいと思います。

原:弊社が投資している約120社のスタートアップのなかで、特に支援している20社の現状は二分化しています。新型コロナの追い風に乗れなかった企業は、資金調達の方法をうまく切り替えることができていません。株式投資額が何倍にもなって戻ってくることを期待するエクイティと、元利金を含めて融資額がきちんと返済されることを求めるデッドとでは大きな差がありますから、その違いを理解してビジネスの進路を見きわめなければ、当然起業家は苦労します。

井村:拡大するスタートアップの可能性の一つは、オンラインによって地方の起業家にもアクセスしやすくなったことだと思います。地方の起業家にチャンスはあるでしょうか。

長野:新型コロナ以前と変わらず、投資先を決めるファクターとしては、相手の人となりや展開されるビジネスの内容が最重要です。ですから、もちろん対面したい気持ちもありますが、オンラインでも知りたいことを99%聞ける社会になったので、遠隔地であることは気にしません。これからのスタートアップに求められるのは、デジタル経済を加速するようなサービスだと思います。リーマンショック時代に生まれたベンチャーが大きく花開いていることを鑑みると、コロナ禍に立ち上がったスタートアップが10年後に花開く可能性は十分にあるといえます。着実にやればきちんと上場できます。ひとりの人間の生き方としても、自分の責任と選択によって切り開いていくことは幸せにつながると思うので是非、チャレンジしてください。

原:今後はフルオンラインになるので、地方からもスタートアッププログラムに参加できる点、また、地域ごとに特色あるプログラムのなかから選択できる点で、起業家には大きなプラスになると思います。そして、不況は起業にそこまで影響を与えません。実際のデータで見ても、不況の際には事業内容も投資に対する返戻率も良いスタートアップが出現しています。基本的に、スタートアップは課題を解決するために始めるものです。コロナ禍であるということは、自分たちが活躍できる可能性が増えているということなので、前向きに進んで欲しいと思います。

コロナ禍においても、スタートアップには大きなチャンスが広がっている。これからのスタートアップに求められるのは、新型コロナというピンチをチャンスに変える発想をかたちにすることだろう。

■ STARTUP CITY SAPPORO
<街に、もっとチャレンジを。街からもっと、イノベーションを。未来を切り拓くためのアントレプレナーシップを育み、革新的なアイデアを持つスタートアップと社会をつなぐプロジェクト。>をスローガンに、札幌市、札幌産業振興財団を中心として、2019年に発足したプロジェクト。アントレプレナーシップ育成事業では、高校生を対象とした起業体験プログラムや大学生を対象とした起業講座を定期的に実施しているほか、スタートアップコミュニティの構築を目的に、テーマ別のミートアップも開催。また、オープンイノベーション事業では事業成長を支援するため、先進的なアイデアやプロダクトと社会や地域をつなげ、国内外のスタートアップの各種検証を即時に構築できる体制を整える。スタートアップのさらなる成長を促すとともに、先端サービスを札幌、北海道に実装して次世代の街づくりに役立てることもプロジェクトの目的とする。

登壇者

■長野泰和
株式会社KVP・代表取締役社長/パートナー。KLab株式会社入社後、BtoBソリューション営業を経て、社長室にて新規事業開発のグループリーダーに就任。その後、2011年12月に設立したKLab Venturesの立ち上げに携わり、取締役に就任。2012年4月に同社の代表取締役社長に就任。17社のベンチャーへの投資を実行する。2015年10月にKVPを設立、同社代表取締役社長に就任。

■ 原 大介
2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は90億円超。2019年11月よりデジタルガレージに参画。

■ 井村 圭
株式会社日本総合研究所・リサーチ・コンサルティング部門研究員。北海道音更町出身、早稲田大学卒業。在学時は国会議員事務所、スタートアップにてインターンを経験。2007年から外資コンサルファームにてDXコンサルティングに従事。その後、2015年からイノベーションファームにて主に経済産業省、自治体(帯広市など)のスタートアップ関連事業に従事。2016年から1年間、経済産業省に出向し、地域経済分析システム(RESAS) )の開発に携わる。2018年、株式会社会社日本総合研究所に入社し、NEDO(+NoMaps)、内閣府、SMBCのスタートアップ関連事業に従事。現在は主にスタートアップ、スマートシティ 、MaaS分野を専門に担当。

 

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