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With/Afterコロナ時代、M&Aの成功に必要なこと

2020.07.10

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ぶっちゃけ、いまM&Aしますか?
オンラインイベントレポート

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の蔓延によって経済が混乱しているいま、M&A(Mergers and Acquisitions:企業の合併・買収)が、企業の存続に必要不可欠となってくるだろう。この状況下で、自身の企業・事業の売却を考えている経営者は、取引先とどのようなアプローチをとればよいか。求められているのは、ビジネスの強度と信頼関係であるといえるだろう。

不況時のM&Aは企業を成功へ導くチャンス

株式会社M&Aクラウドは2020年5月27日、オンラインセミナー「ぶっちゃけ、いまM&Aしますか?」を開催した。モデレータをM&Aクラウドの設立者・及川厚博が務め、登壇者に株式会社スマレジ/代表取締役・山本博士さんと株式会社カオナビ/代表取締役社長/CEO・柳橋仁機さんを招いた。

及川厚博氏(以下、及川):M&Aクラウドは、ウェブ上での会社の買収売却、資本提携のマッチングを行なうプラットフォームを提供しています。弊社は4月に「新型コロナウイルス影響下での買収・出資意欲について」というアンケートを実施しましたが、その結果は、新型コロナ不況にあっても106社のうち65%が他社の買収・出資を検討しているというものでした。回答企業の77%がIT・ソフトウェア・通信とサービス・インフラ業界で、うち57%が上場企業。この結果を踏まえ、新型コロナ状況下でも積極的にM&Aを検討していると回答した上場企業の社長2名に、本イベントで議論を行なっていただきました。

山本博士氏(以下、山本):株式会社スマレジは、2005年に創業しました。2011年からサービスを開始し、小売店や飲食店にクラウドやソフトウェアを提供しています。弊社プロダクトの特長は、商品の仕入れや複数店舗への配分といった在庫管理、棚卸し、会計レジ・決済・販売管理、売上分析、顧客管理、労務管理など、サービスの幅が広いところです。現在は、集積した計2兆円分の店舗データをビックデータとして共有し、分析・活用するという事業を検討しています。



柳橋仁機氏(以下、柳橋):株式会社カオナビが提供しているのは、顔写真が並ぶクラウド人材マネジメントシステムです。異動、配置、抜擢といった人材マネジメント業務の際に、社員の顔写真データを利用してもらいます。私が弊社を起業したのは2008年でしたが、直後にリーマンショックの打撃を受け、2012年にようやく資金を得られ、本格的に事業を始めてからちょうど8年経っています。上場した2019年から「カオナビNEXT FUND」を立ち上げ、出資を含めたM&Aの実施も視野に、社の拡張を行なっているところです。

登壇者らの議論は、あらかじめ用意していたテーマに基づきながら、参加者から寄せられる質問に答えていくかたちで行なわれた。まず及川さんが、不況時のM&Aが企業の将来に大きな飛躍をもたらすことを、データを用いて以下のように検証した。

及川:リーマンショック時のM&Aについて振り返ると、件数は下降こそしますが程度は緩やかだったので、M&Aに関しては、今回のコロナショックにおいても早めに手を打つのがいいと見ています。また、不況時にはTOB(株式公開買い付け)が増加するというデータがあり、同業同士の事業再編や子会社の譲渡が活発に行なわれています。特にIT関連の大手企業は、次世代インターネット事業への投資に積極的で、例えば、楽天は決済サービス領域に参入するためネット銀行を総額228億で買収し、これは現在の楽天における最たる強みになっています。GMOインターネットグループも最先端のSEO運営技術を持つ会社を買収し、現在のウェブマーケットの強度を下支えする存在になっていますし、不況時は買い手にとってのチャンスと言えます。

M&Aで重視される企業、期待される事業とは?

及川:さて、対談に入りますが、いまお話しした不況時のM&Aへの見解は、コロナショックにも共通すると思われます。ただ、このあとも新型コロナ不況が今後も続くことを想定すると、企業の売却はいますべきか先延ばしにすべきか、どう判断すればよいでしょうか。

柳橋:私は買い手サイドの意見になりますが、たしかに不況時はバリュエーション(企業価値評価)が下がるという点において、買い手にとってのチャンスです。ただ、そこに大きなタイムラグがある点に留意しなくてはなりません。今回のコロナショックにおいても、まだ下がっていないので、やはり時期を見計らった方がいいですね。ベンチャーキャピタルの方々からは、半年後を狙っているといった声も伺えます。

及川:現状は、VC(投資ファンド)の共同売却権などの理由で譲渡希望価格が高まっていますね。この環境下で、納得のいくバリュエーションでの売買を行なうにはどうすればいいでしょう。

柳橋:VCが関与していると難しいと思いますが、事業効果が見込める相手なら、こちらは事業ノウハウを提供する等の交換条件を組むことで、バリュエーションを部分的に相殺することはできます。純粋な財務投資だとバリュエーションを下げることが難しいので、金額以外のポイントを探るのがいいと思います。

山本:VCが介在すると、どうしてもバリュエーションが高くなりますが、大事なのは事業効果ですよね。シナジーが合わなければ高いだけだし、合えば納得がいきます。

及川:その際、売上が大幅に下がった会社を買いますか?

山本:私の場合は業種によりますが、売上の低迷している会社でも世の中の潮流とその会社の展望が一致していたら、目下の状況を我慢してでも買います。新型コロナ終息後に見込みがないと厳しいです。

及川:緊急事態宣言が出されてから、M&Aに関する相談は増えましたか? 特に山本さんは飲食店系のオーナーから話が来ると思いますが。

山本:全体的に増えましたが、飲食店からはまだ来ません。というのも、世の中では飲食店がフォーカスされていますが、飲食店が落ち込んだのはインバウンド系やイベント系の業界のあと。飲食店は緊急事態宣言のあった4月から後ろ倒しに経営困難に向かっているので、厳しくなるのは少し先になると思います。すると、手を打つのはいまかもしれませんが、各社はM&Aよりも自社の運営で精一杯なところなので、M&Aに時間を割けるかどうかは考えどころです。

及川:そう思うと、いまM&Aはするべきでしょうか。また、するとしたらどのようなアプローチを求めるでしょうか。

柳橋:よほど強いシナジーがあって納得のいくバリュエーションであれば検討しますが、現時点ではバリュエーションがどうなるか分かりませんし、自社も多忙を極めているのでかなり好条件でないと難しいです。とはいえ、もちろん検討はします。はじめはフリートークのなかで見えてくる程度のシナジーでいいです。

山本:目下で赤字になっていても、経営陣の方針や事業の見通しがきちんとあるならば、変わらず検討します。スマレジで言うと、現状においても進めたい事業があるので、シナジーに求める内容は新型コロナ前後で変わりません。

柳橋:そうですね。私も、基本的に今までどおりの目線で探しています。シナジーを見たいところですが、条件としては人員や展望があればいいですから。

及川:ではwithコロナが前提となる今後の経済のなかで、具体的にどのような業界・企業に関心を持っていますか?

柳橋:With/Afterコロナにおいて、インターネットに関連する業界の変化はあまりないでしょうけれど、不動産業界の変化は大きいと思います。例えばオフィスが不要になる、ソーシャルディスタンスを考慮して面積が必要になる、シェアオフィスが増える、地価の高い都内から拠点が分散される、など。現在、不動産業界ではポジショントーク合戦をしています。働き方次第でオフィスのニーズが変わる、という点で興味深いです。

山本:働き方が変わってもヒトは根本的に移動するもので、密集することにもメリットはあると思っています。しかし、弊社もオンライン化を進める必要性は痛感しました。それに関連したことを言うと、政府や行政系の情報システム化の遅れが顕著になりましたね。ハンコ文化もそうですが、そもそも紙の文化が諸悪の根元になっています。会社のコピー機や複合機を取り払おうとしても、行政の手続きが壁になっています。行政のサービス開発は民間でする方が早いでしょうから、ガバメント系のテクノロジーの開発・発展が今後あるのではないかと見ています。

コロナ禍中でも通常のスタンスでM&Aに取り組むとはいえ、普段以上に失敗の許されない投資であり、買い手はかなり慎重に買収・出資を検討することになる。したがって、売り手には時勢を見きわめること、事業のシナジーに明白な言葉を与えること、その効果の見通しを明確にすることが求められている。

Withコロナ社会のM&Aで、売り手側がすべきこと

及川:キャッシュアウトしそうなベンチャー企業が多い状況では、売り手のどんなところを見ますか。

柳橋:不況とは無関係に、キャッシュポジションとキャッシュフローを見て、大丈夫なら問題ないと思いますが、中身にもよります。こういう状況だからこそ、経営陣の考え方や裁量が大事になるので、社長がすぐに辞職するような企業や事業は避けたいです。

山本:柳橋さんと同じく、人の部分は大きいです。事業が傾きかけても、長期にわたって一緒に働きたい人だったら、その人のために乗り切ろうと思えます。次に大事なのは、サービスの完成度合いです。具体的な見通しが立っていないと話になりませんし、金額の相場や収益を含め、ある程度カタチになっていなければリスクが高く、立ちどまってしまいます。とはいえ、ソフトウェア資産という点で価値を見出せなくても、とにかく経営者とITエンジニアのスキルセットで見て、良ければ話を進めたいです。

及川:どんな人がいいですか。

山本:経営者の理念がどのくらい一致するか、どのくらい素直な人かを見ます。

柳橋:人で選ぶ場合、エレベーターピッチ(短時間で自分の意見を適確に伝えるプレゼンテーション)のレベルでの仕上がりを重視します。5分や10分で自分の会社や事業のエッセンスをきちんと伝えられるかどうかを見ています。

及川:売り手を見る際には、カルチャーが合う人、事業の解像度を把握していて端的に説明の与えられる人が重要ということですね。たしかに弊社のクライアントにも、ピッチ能力の差が見受けられるので、フォローしていきたい点です。それでは、この状況でのM&Aに関して売り手サイドへのアドバイスはありますか。

柳橋:定款上ではシナジーのない企業や事業への純投資もできますが、未知の業界に手を出すと自らの領域を疎かにしかねないし、勇気もいるのでやはり難しいです。基本的にはシナジーを要求します。そして何よりも求めることは、経営者が社長を続けることです。続けないにしても、自分で立ち上げた事業を手放して後悔しないか、買収側の経営陣とうまく折り合いがつくか、よく考えて欲しいと思います。

山本:私の場合、違う業界は控えたいですね。相乗効果が見込められたら進めますが、まずは出来る限り近い業種であって欲しいです。接点がないのなら、面白いと思ってもやりせん。だから柳橋さんと同じく、事情によっては仕方がないけれど、社長は是非そのままポストを続けて欲しいです。

及川:では最後に、山本さんと柳橋さんからそれぞれ、M&Aを考えている経営者へのコメントをお願いします。

柳橋:弊社には「カオナビNEXT FUND」という窓口もあります。M&Aクラウド経由でもいいのでM&Aの話はどんどん下さい。現在、弊社ではソーシングビジネスを行なえる人を募集しているので興味があったらお願いします。お待ちしております。

山本:フェイスブックなりツイッターなりで声をかけていただければ、改めて議論を行ないたいと思うのでご連絡下さい。スマレジに関していうと、日本一のデータ量を目指して事業を推進しているので、クラウドで業務の効率化を図ることに賛同してもらえるなら協力していただけると嬉しいです。よろしくお願いします。

■山本 博士 株式会社スマレジ/代表取締役。2003年よりITエンジニアとして多数の業務システム開発に従事。これまで関与した開発は、金融・通信・物流・保険・製造・サービスなど多岐に渡り、アプリコンテスト審査員や書籍執筆なども経験。 複数の業種をまたいだ業務知識を持ち、過去の経験を裏付けつつも既成概念にとらわれない斬新なアイディア立案を得意とする。2011年 株式会社プラグラム代表に就任後、過去ドラッグストア向けPOSシステムを開発した経験を元に、クラウド型POSレジサービス「スマレジ」を立ち上げる。2019年2月東証マザーズ上場。

■柳橋 仁機 株式会社カオナビ/代表取締役社長/CEO。2000年、東京理科大学大学院修了。アクセンチュアに入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。その後、アイスタイルで人事部門責任者として人事関連業務に従事した後、2008年にカオナビ設立。2012年よりクラウド人材マネジメントシステム「カオナビ」の事業を本格的に開始し、現在は業界シェアトップクラスのサービスに成長させている。2019年3月東証マザーズ上場。

■及川 厚博 1989年生まれ 札幌出身 2011年在学中にマクロパス株式会社を創業。シリコンバレーにリサーチ拠点と東南アジアの開発拠点でプロトタイプの開発を行う「新規事業開発の貿易ビジネス」を展開し、4年で年商数億円規模まで成長。別の事業に集中するため、2015年に同事業を数億円で事業譲渡。その際に、売却価格の算定と買い手探しのアナログな点に非常に苦労した。また、自分自身が事業承継問題の当事者であり、中小ベンチャーのM&Aに興味を持った。これらの課題をテクノロジーの力で解決したいという思いから、株式会社M&Aクラウドを設立。

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