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レポート

富士通アクセラレーター第9期採択企業国内17社をお披露目。イノベーションの未来を模索する

2021.02.08

スタートアップ市場が成熟する中で、大企業によるアクセラレータープログラムの取り組みも活発に行われつつある。その中でも、富士通アクセラレーターは過去5年間で8回実施され、150件以上の協業検討・85件以上の協業実績を誇る。本プログラムの目的は、革新的なスタートアップの技術・製品と、富士通グループの製品・ソリューション・サービスを組み合わせ、世の中へ新たな価値を提供すること。

第9期となる今回は、応募のあった国内外200社から、書類選考・オンライン個別面談を経て19社を採択。次ステップの開発PoC実施へ進む国内17社によるサービス発表と、アクセラレーターの担当者による対談を、オンラインにて開催した。

富士通が考えるこれからのイノベーションの価値

冒頭に、富士通株式会社執行役員常務CIO兼CDXO補佐 福田 譲さんが、本プログラムにかける富士通の思いを語った。

福田 譲さん:イノベーションが一般化した現在では、イノベーションとディスラプション(代替品の登場)のサイクルが一層加速し、「新しい価値を届けること」がビジネスの焦点となっています。そもそも、イノベーションとは既に世の中にあるもの同士を新しい方法で掛け合わせたもの(=新結合)です。アクセラレータープログラムにおける掛け合わせは、スタートアップと大企業。スタートアップは新たなアイデアや技術はあるが、顧客や資金がない。大企業は顧客や資金が潤沢だが、リスクを取ることはあまりしない。つまり、アクセラレータープログラムとは、双方のニーズを満たせる取り組みなのです。この二者は元来、異質なものですが、しかしながらパーパス(目的・使命感)でつながることができる。同じパーパスで結ばれた異質な存在が掛け合わされ、そこにイノベーションがある。これがアクセラレータプログラムの醍醐味だと思っています。

富士通は2020年に、12年ぶりにパーパスを刷新しました。キーワードは「イノベーション」「信頼」「持続可能」です。気候変動と生態系の変化が問題となる現在、地球環境の上で成り立っている我々の生活・ビジネスにおいて、環境保全は必須の価値観であり、新たなビジネスチャンスにもなり得ます。そんな時代において、自身のパーパスと価値とを社会に提供していく企業に生まれ変わるために、我々はまず自社のエコシステム型DX推進に取り組んでいます。その主要プロジェクト名は「Fujitsu Transformation」、通称「フジトラ」。2020年7月にキックオフしました。

そして、大きな結果を出せる長期的なビジネスを作り上げるために、 “みんなで”取り組みます。関わる人数が多いほど価値観も違うし時間もかかるものですが、アフリカのことわざに「早く行きたければ一人で行け、遠くまで行きたければみんなで行け」という言葉があります。みんなで組織や会社の強みを持ち寄って掛け算をしていく中に、新たな価値創造があると信じています。

国内採択企業17社による発表

採択スタートアップの発表は、「ヘルスケア」、「リテール・センシング・金融」、「業務効率化・見える化」の3セッションで行われた。

セッションA 「ヘルスケア」

株式会社プレシジョン
代表/医師 佐藤 寿彦さん:弊社は、医療現場に患者自身が記入する「AI問診表」と医師向け「電子教科書」を導入することで、医療の質の向上を図ります。AI問診状はカルテ作成の所要時間を1/3に短縮させ、また、その情報に対応する電子教科書のページを表示することで、医療従事者の激務を軽減させます。電子教科書は、日本を代表する著名な医師2000名に協力いただき、3000疾患700症状所見を収録しました。データは機械学習により、さらなる蓄積が可能です。私たちは、GDPの40%を占める産業である医療の現場に変革をもたらします。

株式会社MEDICOLAB
代表取締役/医師 井汲 一尋さん:名古屋を拠点に、医療機関向けの製品・サービスを提供するベンチャー企業です。富士通と提携したい事業は以下の4つです。まず、医師看護師向けの医学略語辞書のアプリ「医学略語」。6000語の専門用語を収録し、電子カルテにある医学略語・用語の概要と詳細をすぐに調べられます。2つ目は、スピードと正確性を担保した、医師向け医学情報検索サービス「MEDVISEOR」。富士通との提携においては、写真や動画の共有・検索ができる新サービスの共創を期待しています。3つ目は、医師向け薬手帳読込アプリ「KusuriScan」。スマホのカメラを薬手帳にかざすと、薬と想定される病名が表示され、診療の手間の大幅削減・医療リスクの低減に貢献します。4つ目は、デジタルバイオマーカーによるパーキンソン病・認知症の疾患判定と病状管理をするプラットフォームです。デジタルバイオマーカーとは、デジタルデバイスを装着することで自動的に身体のデータ収集・疾患の判定・病状の管理ができるプログラムで、米国欧州では治験や診療で応用され始めています。こちらは本協業において、サービスの共創、共同研究開発、資本提携を想定しています。

株式会社エスケア
CDO 平林 義行さん:食にまつわる課題解決を通じて人々のウェルビーイングに貢献することをミッションに事業展開しています。中でも塩と栄養に特化しており、塩の取組事例としては、減塩に代わる新しい塩分管理の方法「ソルトコントロール」の開発、「SALT FREE」食品の製造・販売、食の文化や歴史を学びながら食を学び直す「TEACHING KITCHEN」の企画・運営を行なっています。栄養の取組事例としては、独自アルゴリズムに基づいた「栄養状態可視化ツール」の提供を行なっています。開発者は、東京大学大学院医学系研究科教授佐々木 敏先生。延べ百万人のデータ分析に基づいたサービスで、栄養状態を詳細に可視化します。富士通とは、栄養の事業にて協業予定です。

AZAPA株式会社
サービス事業部 サイエンスグループリーダー 橋本 一生さん:弊社の主な活動は、日常における感情や行動の情報を収集し、サービスやプロダクトに反映させることです。従来の商品価値は機能や価格に左右されていましたが、今後は、心地良さや共感といったパーソナルな部分に迫れる付加価値を重視する社会が到来するでしょう。次世代に先駆け、弊社の「感性・感情解析プラットフォーム」で、心臓の動き・汗・呼吸・表情・声といった身体情報を読み取り、集積します。集積データを統合していくと、自動運転の制御やスマートシティを実現できると考えていています。顧客には、センサーの選定・運用の提案から、クラウド上のデータを蓄積・解析するアルゴリズムまでをパッケージで提供。使用目的に応じて専門家の意見を交えながら、アプローチ方法と開発工程を設定し、検証するまでの一連のプロセスを一貫して取り扱います。

WINフロンティア株式会社
代表取締役社長 兼 CEO 板生 研一さん:ウェアラブルでココロの見える化に挑戦しているベンチャー企業です。東京大学発のNPO法人が母体になっており、産学連携で活動しています。弊社は、現代のうつ病リスク改善のために、スマホで簡単にココロのチェックができるアプリ「COCOLOLO(ココロロ)」を開発し、また、その解析アルゴリズムをモジュール化して様々なウェアラブルデバイス向けのライセンスを提供しています。特に今後は、リストバンド型センサーと感情解析アルゴリズムを組み合わせることで社会課題の解決に貢献したいです。さらに現在は、テレワークにおける社員の健康管理のための企業向け新サービス「COCOLOLO DRILL(ココロロドリル)」もテストローンチ中です。

セッションB 「リテール・センシング・金融」

株式会社スマートショッピング
代表取締役 志賀 隆之さん:弊社は、日々のモノの流れを超スマートにするというビジョンをもったスタートアップです。重量センサーを搭載した「スマートマット」というIoTプロダクトにより、棚卸しや発注業務の工数を削減します。スマートマットの上に物を置いておくと、1日に数回自動で重量を計測し、そのデータに基づいてソフトウエアが自動的に棚卸し・発注・在庫管理を行います。食品製造、工場、ホテル、美容院、医療関係、ECなど幅広い分野で採用されており、サービスリリースから2年弱で1.4万台を出荷しています。

株式会社wevnal
代表取締役社長 磯山 博文さん:10年間デジタルマーケティングに関わる中で抱えた、EC購入フォームでのユーザー離脱問題を解決するために、ウェブ接客とEFOを掛け合わせた会話型チャットボット「BOTCHAN(ボッチャン)」を開発しました。ユーザーには、一問一答形式の会話形入力フォームやスムーズな入力といったメリットがあり、企業には、実装・デザインカスタマイズが簡単、質問項目を改善できるといったメリットがあります。某化粧品メーカーでは導入後販売数が2倍に伸び、5000万円の利益貢献につながりました。料金プランは、SaaSで月額料金+CV課金。競合優位性は、チャットでクレジットカード決済までできること、導入企業ごとに最適なシナリオを提供できるクリエイティブ力によって担保しています。

株式会社I’mbesideyou
代表取締役社長 神谷 渉三さん:弊社は、コロナを機に起業したコロナネイティブカンパニーで、システムから特許までを内製できる体制が特徴です。オンラインでのコミュニケーションを改善する「動画解析AIサービス」を提供しています。導入方法は、Zoomアカウントとリンクするだけ。オンライン家庭教師を例に挙げると、オンライン授業の翌日、現場責任者に解析データから必要情報を抽出したメールが届くので、コミュニケーションを継続的に改善できます。オンライン教育現場の見える化により、生徒にはAIによって最適な講師が送り込まれ、現場責任者は毎日のチェックでコミュニケーションの質を担保でき、保護者はお子さんの様子をダイジェスト動画で見ることができます。弊社サービスによって、ロイヤリティは向上し、解約率は低下、ママ友間のリファラルによる新規顧客の増加につながります。ビジネスモデルはHorizontal SaaSで、980円/1人で全ての機能を提供。オンラインコミュニケーション特化型マルチモーダルAIとしては世界で唯一ですから、グローバル展開によって売上1000億を目指します。

株式会社toraru
代表取締役 西口 潤さん:弊社は、遠隔作業代行サービス「GENCHI」を提供しています。移動時間・移動予算・身体の理由によって、展示会・イベントに参加できないという問題を、“人間版Uber”ともいえる仕組みで解決します。副業を掛け持つパラレルワーカーに依頼して会場に行ってもらうことで、依頼者はスマホ画面を通して体験でき、質問があればTV電話モードでつなぐことも可能です。スマホがあれば、特別な機材は不要ありません。これは、依頼者・請負者の働き方を変えるボディシェアリングプラットフォームサービスだと自認しています。マネタイズは2形式を想定していて、VIPユーザーを遠隔で招待することと引き換えに場所のオーナーから販促費・システム費をいただく形式と、当社経由でユーザーと代行者を弊社サイト経由でマッチングして費用をいただく形式です。

株式会社ダイナミックプライシングテクノロジー
取締役 COO 中村 嘉孝さん:我々は、需要と共有のバランスに応じて価格を自動変更するダイナミックプライシングのアルゴリズムを開発する会社です。ショップが急増中のEC業界で今後必須となる、適切なタイミングでの価格提示を、ECサイト特化型ダイナミックプライシングツール「throough」が可能とします。ユーザーに価格の上限・下限価格を入力してもらえば、AIが平均販売価格や価格の弾力性などを自動収集し、最適価格を算出、需給バランスに応じて値付けします。弊社は、楽天市場やYahoo!ショッピングとAPI連携済みで、モデルカスタマイズも可能、無料から利用できるのが特徴です。今後は、実店舗を含めた小売業界全体でのトップシェアを狙っており、フードロスや衣服ロスなどの社会課題も解決していきたいです。

株式会社justInCase
代表取締役 CEO 畑 加寿也さん: 我々は、保険会社のjustInCaseと、保険業界にテック機能を提供するjustInCase Technologiesの2社体制で、今回ご紹介するSaaS型保険ソリューション「Master」はjustInCase Technologiesの管轄です。「Master」は、保険会社の問題であった、商品開発とデジタル販売への移行にかかる時間を短縮するもの。具体的には、弊社の「Admin Portal」というAWSの管理画面システムをクラウドベースで提供します。保険会社のシステムを制作する富士通との協業により、システム接続のハードルを突破し、保険業界に風穴を開ける取り組みです。料金プランはSaaSなので、固定費用をお支払いいただければ、バージョンがどんどん更新され、コンバージョンがより高まるサービスを目指しています。

セッションC 「業務効率化・見える化」

Workato,Inc.
カントリーマネージャー 鈴木 浩之さん:弊社は、仕事を自動化するためのプラットフォームサービス「Workato」をクラウド上で提供しております。我々のミッションは5つ。①全方位的なスキルのユーザーの利用、②人間とシステムのコラボレーションの円滑化、③セキュリティ・メンテナンスのコストカット、④サーバーの調達・運用が不要、⑤アジャイルにより短時間での実装が可能、です。単一プラットフォームで多様なユースケースへの対応が可能で、アプリケーションを連携させる「iPaaS」、「ビジネスプロセスのオートメーション」、botと会話することで業務を効率化する「カンバセーショナルボット」、リアルタイムでのビッグデータ解析ができる「ETL/ELT」、APIのエンドポイントをノンコーディングで提供する「APIマネジメント」まで担います。APIエコノミーによって、オンプレミスアプリケーションやクラウドやPaaSや他社APIなどともシームレスに連携して業務自動化できますし、さらに、オンプレミスエージェントソフトウェアを利用すると、オンプレミス上のシステムとの連携も可能です。

株式会社QuantumCore
事業開発マネージャー 寺嶋 毅さん:発言者ごとの文字起こしをするサービス「Sloos(スルース)」を運営しています。会議などクリエイティブな場での議事録作成の手間を省くために開発しました。特徴は、発言者を区別した書き起こし、リーズナブルで柔軟なプラン設定(月額800円〜)、録音終了後はユーザーの手元のみにデータが残るセキュリティ設計の3点です。2020年のリリースから累計700社以上に登録いただき、Microsoftのスタートアッププログラムにも採択されました。「Sloos」では発言数値化もでき、今後は分析レポート、パフォーマンス予測、リソース最適化までのサポートを目標にしています。

サンクスラボ株式会社
代表取締役 村上 タクオさん:弊社は、沖縄県那覇市を拠点にソーシャルビジネスを行うベンチャー企業です。「IT×福祉」をテーマに、障がい者の就労支援を行う福祉施設の運営を通じ、デジタル系業務を担える障がい者の育成をメイン業務としています。強みは、多様なネットサービスを直接運用し全行程のノウハウがあることで、障がい者に幅広いデジタル業務の機会提供ができること。障がい者向けに業務を細かく切り出し、さらに、障がい者だけでは担えない先端分野においてはベトナム・ホーチミンのスタジオが連携してカバーしています。新しい障がい者の就労支援の形としてメディアや行政からも注目いただいおり、業界内ではデジタル業務特化型の就労支援という独自のポジションを築いています。本プロジェクトへの応募動機は、コロナ下での精神疾患者や自殺の急増を受け、精神障がい者の社会自立支援をより強めたいと思ったからです。本協業では、「DXによる自動化×人的作業」の効果促進のため、デジタル系業務が可能な障がい者活用プロジェクトを模索していきたいです。

ストックマーク株式会社
チーフアルケミスト 森住 祐介さん:弊社は、自然言語処理に特化したスタートアップで、DXを支援する3つのAI SaaS「Anews」を展開しています。デジタル化への障壁となる組織のカルチャーや人材不足といった問題解決のために、AIを使った情報収集&共有によって、チームの外部情報感度を高めるサービスです。具体的には、組織の興味関心事をAIが解析して国内外3万メディア記事から必要なニュース記事を厳選して配信します。さらに、収集した情報は簡単にメンバーにシェアが可能。チームメンバーがマークした記事やコメントした記事のチェックも出来ますし、登録したキーワードに一致するニュースの自動収集もしてくれます。2017年のリリースから約1500社以上にご利用いただいていますが、その背景には、現代が予測不可能な時代になったことと、リモートワークの常態化によるコミュニケーション不足が考えられます。AIをチームのパートナーとして活用することで、創造性の高い組織づくりに貢献したいと思っています。

3i Inc.
セールスマネージャー JH Leeさん:弊社は、リモートでファシリティマネジメント業務を行えるソリューションを提供しています。従来のファシリティマネージャーは施設や設備の点検管理のために頻繁に現場に行く必要がありましたが、現場情報をオンラインにアップロードすることで、業務削減を提案します。専用アプリで室内空間をキャプチャすれば、どんな規模のスペースでも簡単に素早くデジタルツイン化(仮想空間に再現)でき、サーバーにアップロードすることで第三者への共有も可能です。バーチャルでの寸法測定や、デジタルツインへの情報のタグ付け、ナレッジの共有、過去のアーカイブデータの確認もできます。通信業・製造業ではすでに実績があり、日本では富士通とそのクライアント施設にリモート管理プロセスを導入することで、新たなバリューを提供できます。

connect.plus株式会社
代表取締役CEO 坂井 洋平さん:IoT活用の最後の一歩を埋めるクラウド型データ可視化サービス「connect+(コネクトプラス)」を開発・提供しています。IoTはサービス開発の難易度が高いという問題を抱えていますが、弊社はIoTアプリケーションに必要な機能をノーコードでSaaSにて提供します。特徴は、データをより分かりやすく伝えたり、ウィジェットを選択するだけで様々なデータ表示できたりする点。さらに、Slackなどのシステムへの通知設定も可能です。ユーザーはローリスクかつ簡単に、目的に応じて利用できます。初期費用は0円で、月額5980円から利用可能です。サービス登登録は1200社以上、約7.4兆円の市場攻略に向け、さらにIoTアプリケーションの統合を進めて行きます。

今回採択された19社は、2021年4月末まで協業検討フェーズに入り、デモデーで成果発表となる。

対談「今さら聞けない、でもこっそり聞きたい・・・ スタートアップ連携のポイント」

左から、松尾 圭祐さん、阿久 津智紀さん、田原 彩香さん

司会 田原 彩香さん(以下、田原):対談セッションでは、JR東日本スタートアップ株式会社 シニアマネージャーであり株式会社TOUCH TO GO代表取締役社長でもある阿久津 智紀さんをお招きし、富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR 事業開発担当 松尾 圭祐さんと対談いただきます。

阿久津 智紀さん(以下、阿久津):私は、JR東日本で長年新規事業に関わってきました。形になるまで数年かかっていた事業開発の流れを改善するため「JR東日本スタートアッププログラム」の取り組みをはじめ、2018年には株式会社としてコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)として独立し、協業推進の活性化を図っています。個人としては無人AI決済店舗を運営するTOUCH TO GOを設立しました。CVCとベンチャーの両面の立場でビジネスをしています。

松尾 圭祐さん(以下、松尾):私は、FUJITSU ACCELERATORの企画運営を担当しています。富士通に入社後10年ほどマーケター、企画戦略を経て、2015年にFUJITSU ACCELERATORを立ち上げました。スタートアップのスピードに対応できるよう、協業の早期創出の仕組みを整えています。過去5年間で8回のプログラムを実施し、85件以上の協業実績がありますが、今日は良い話だけでなく失敗談もお話する予定です。

田原:それでは早速、1つ目の質問。スタートアップ連携で最も苦労したことは何でしょう?

阿久津:スタートアップと大企業の文化の違いに尽きるかなと思います。スピード感も関わる人数も違う。私たちはそのギャップを翻訳する立場なので、スタートアップが浸透していなかった当初は、特に風当たりも強かったですね。

松尾:私の場合、スタートアップと社内との対立に悩まされました。社内の研究所では外部の方への拒否反応があったようで、私は4〜5ヶ月の間、社内とスタートアップとの板挟み状態でした。

阿久津:それ、どうやって解決したんですか?

松尾:「対立するなら、どっちの製品がすごいかガチンコで勝負してよ!」と言って、第三者機関に判断してもらったんです。結果、スタートアップの方がちょっと性能が良かった。

阿久津:おお〜〜!すごい!

松尾:その後は、お互いが切磋琢磨し合う関係になって、次のステージに進めました。協業当初はぶつかるかもしれないけど、早期にマーケットを獲得するためには客観的に判断することが大切だと思います。思い返すと、当初は協業の仕組みがないのが辛くて、ずっとあがいていました。

田原:阿久津さんはあがいていた時期ってありますか?

阿久津:私は辛くないと燃えてこないタイプで、敵が多いほどヤル気が出る。普通の人が出来ないことをやっていたいんですね(笑)

松尾:アブノーマルな挑戦精神ですね(笑)

田原:でも、誰もやったことのない事業に取り組むって意味では、お二人は似ていますよね。

松尾:スタートアップの協業ってまだ作法がないから、仕事のルーチンができあがっている大企業に持ち込むと当然拒否反応が起こる。でも、その中で生き残ったものが本物になるんじゃないかな、と思っています。

田原:続いて、スタートアップ連携で1番大事なことって何でしょう? 核心をついたテーマですけど、うまくいくときには予感があるものでしょうか。

阿久津:先程、私もアブノーマルって言われましたけど、アブノーマルな人がまわりに増えていって、それがビジネスとして紐付いた瞬間に「これ、勝てるな!」って思いますね。結局、成功の秘訣は「人の思い」だと思っています。弊社の場合は、グループ会社間で連携することが多いので、その関係の中でスタートアップのために動いてくれる人をジョインすることを重視しています

松尾:阿久津さんに勝ちパターンのお話をしてもらったので、私はマインドセットの話をしてみます。持ち込み企画をするときに心がけているのは、「役員を恐れない」「危険から逃げない」の2点です。富士通は真面目かつ縦の関係の強い会社なので、上からの指示以外のことを独自で動く人がなかなかいないんですけど、私はイレギュラー分子というか、ゲリラ的に動いて実績をまず見せています。もちろん報連相も大事なんですけど、既成事実がないと上も納得してくれない場合があるので。正規ルートだと数ヶ月かかるものを、独自に動いて1〜2日で話をまとめたりしています。

阿久津:外部から見ると、富士通さんって専門特化型のチームがたくさんいる印象だから、上に伺わなくても業務を進められる文化があるのかと思っていたけど……。

松尾:おっしゃるとおり専門分野は多岐にわたっているんですけど、それぞれの集団に親分がいて、まとまっている。だから、親分に嫌われるとエライことになるんです(笑)

田原:松尾さんは、嫌われたことはあるんですか?

松尾:嫌われまくってましたよ(笑) 過去のアクセラレーターの翻訳事業が承認されたときに「お前のせいで儲かってない」と言われ、そこからいち早く結果を出す戦略を編み出しました。行動様式が固まっている組織の中で、イノベーションをやっていない人に伺いを立てるのは辛い時もありますが、誰よりも早く新規マーケットを見つけることを大切にフットワーク軽く行動しています。

阿久津:ただ、結果で見せるって難しいですよね。

松尾:例えば、事業計画を承認してもらうときに、書類を提出して「儲かるのか」と聞かれてノーデータで「儲かります!」って言ったら嘘つきと言われるかもしれない。でも、潜在的な顧客や市場の定量的なデータを提示すると、上司も一度考えてくれるから、そこで私は「市場があるって分かっているのに可能性を捨てるんですか」と、もうひと押しします。

田原:すごく挑戦的な発言ですね。

松尾:会社での孤立を経験したので、「仕事は自分の力で進めなくちゃいけない」っていう心構えで仕事をしています。

阿久津:今の話をまとめると、スタートアップ協業で大切なのは、「大企業の内部でスタートアップとの通訳を担う存在」じゃないかな。スタートアップは大企業で承認されやすい企画書やデータの作り方を知らないことが多いので、やり方を教えながら大企業の内部で戦ってくれる人が必要だと思います。実際に、私もその立ち位置で仕事をしてきたので。

松尾:でもこの仕事、身内とスタートアップの板挟みになって苦しい時間は多いんですけど、その壁を超えた瞬間が超〜気持ちいいんですよ(笑)

阿久津:分かります。社内で認められていなかった新規事業も、マスコミで取り上げられたりすると急に旗色が変わり始めるんです。それもやりがいのある瞬間ですね。社内で情報を正しく伝えるのって案外難しくて、それよりもワールドビジネスサテライトで紹介してもらったほうが客観的だし、手っ取り早い(笑)

田原:スタートアップにとって時間がかかることは致命的ですが、社内でスピーディに案件を通すために意識していることはありますか?

松尾:「内部の協業責任者にこまめに電話を入れること」です。借金の取り立てのように、お尻を叩いています。メールはダメ、電話です。最初はウザったがられますが、その新規事業の価値に気付いてもらえたら、その後はサクサク進む事が多いので、私がしているのは導火線に火を付けることです。

阿久津:私がやるのは、「事業内容が簡潔に分かる3枚ほどの資料を作ること」。誰が見ても分かる資料を作って回せば、ヘンな伝言ゲームにならずに済みます。

田原:最後の質問は、あなたにとってスタートアップ連携とは? です。

松尾:大企業にとっては、一言で言えば「DXの最短ルート」です。自社でイチから始めようとすると時間がかかるので、ユニークなサービスを見つけて、マーケットの有無を探すことが大事だと思います。スタートアップのイノベーションを大企業のオペレーションに載せることで、安心安全な社会実装ができると思っています。

阿久津:私にとっても大企業にとっても「成長の糧」だと思います。大企業にいると、付き合う人も発注先もものすごく閉鎖的になるけど、スタートアップはそこに全く違う情報をもたらす黒船のような存在です。私は外の情報を知ることができ、会社は社内リソースを使って新規事業ができるますから。

田原:大企業の意識も変わっているというわけですね。今まではグループの中で完結型でしたが、もっと広く開いていく意識があると。

阿久津:はい。外部と関わらないと、技術の発達によって人力の効率化が可能になっていることさえ気づけない。そういう意味でも必要でしょう。大企業も新しい形で事業を作ったり、親会社を越していくような子会社を育てるロールモデルを作ったりするともっと楽しくなると思います。

田原:では、これからもお二人の手によって、教科書のなかったスタートアップ協業に新たな道が拓けるかもしれないですね。今後も一層の活躍を期待します!

登壇者
■ 富士通株式会社 執行役員常務 CIO 兼 CDXO補佐 福田 譲
1997年SAPジャパンに新卒入社後、ERP導入による業務改革、経営改革、高度情報化の活動に従事。2014年7月、代表取締役社長に就任。20年4月より現職。

■ JR東日本スタートアップ株式会社 シニアマネージャー・株式会社TOUCH TO GO 代表取締役社長 阿久津 智紀
栃木県生まれ。2004年JR東日本へ入社。駅ナカコンビニNEWDAYSの店長や、青森でのシードル工房事業、ポイント統合事業の担当などを経て、ベンチャー企業との連携など、新規事業の開発に携わる。19年7月より現職。

■ 富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATOR 事業開発担当 松尾 圭祐
富士通に新卒入社後、サーバーのマーケティング業務にてトップシェア獲得に貢献。商品戦略の企画部門に異動後、2015年に「FUJITSU ACCELERATOR」の立ち上げに参画し、以後現職。

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