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通信環境戦略の専門家による、日本のモバイルWi-Fiルーター市場の行く末

2020.04.28

近年急増するモバイルWiFiニーズの背景

2010年頃から急速な普及を見せるスマートフォン。2017年にはパソコンの世帯保有率を上回り、タブレット型端末の普及も目をみはるものがあります(総務省「通信利用動向調査」より)。それらの通信端末利用者の中には、モバイルWiFiルーターを活用する方が少なくありません。

その背景には、3つの理由が挙げられます。1つは、総務省が推進するテレワークの浸透。生産年齢人口が減少しつつある日本では、高齢者や女性を含む労働参加率を増やす必要があります。時間や場所を有効活用して働くために、柔軟な通信環境が欠かせないのです。またテレワークには、①在宅勤務、②サテライトオフィス等の施設利用型、③特定の施設に依存しないモバイルワークという労働形態があり、モバイルワークの能率向上に、モバイルWiFiルーターが負う役割は大きいと考えられます。

2つ目は、ゲームなどのエンターテイメント利用の拡大です。2017年の日本でのスマートフォン・タブレット向けゲームアプリ市場規模は、1兆3192億円と推計され、前年比で1493億円増加しています(コンピュータエンターテインメント協会(CESA))。

3つ目が、“格安SIM”の発売です。価格面での競争が促進され、格安SIMとモバイルWiFiルーターを組み合わせて使用するなど、各ユーザーが自身に最適な通信サービスを、安価に選択できるようになってきました。以上の3点が、モバイルWiFiルーター需要の高まりの理由と考えられます。

今後、モバイルWiFiルーターの普及は加速するのか?

「キャリアなど通信事業者は、モバイルWiFiルーターの今後の需要に強い関心を示しているものの、これまで精緻な調査結果はありませんでした」と語るのは、日本総合研究所(JRI)通信・メディア・コンテンツ戦略グループ長の浅川秀之さん。

同グループは20年以上に及ぶ通信・メディア・ハイテク領域の専門知識の蓄積に基づき、民間企業を対象にICT(情報通信技術)のコンサルティングや支援を行なっています。約2500名の社員の中で6名しかいない、いわば情報分析・コンサルティングの専門家です。

「今回は独自に、モバイルWiFiルーター市場調査を行ないました。重回帰分析をベースとしたJRI独自予測モデルと、最新のウェブアンケート(ニーズ調査)に基づいて検証しています」

まず、JRI独自予測モデルから言えることは、2018年頃まで急成長してきたモバイルWiFiルーター契約数は、2019年以降は過度な成長は期待できないということです。これは市場が飽和する可能性が高いということ。

上掲の結果は、個人・端末利用や法人利用の今後の利用増があまり見込まれないことに由来します。現在の個人・端末ユーザーに関しては、価格の安さのみで選択している方が一定数存在し、その数は今後増えづらいと予想できます。法人に関しては飽和状態を迎えると言えるでしょう」

「続いて、アンケート検証からも独自予測モデルとほぼ同様の結果が得られました。これはニュートラルシナリオ曲線に表れています。ただし、現在のユーザーの満足度向上のための対応を怠った場合は、普及が妨げられる可能性があります。それはネガティブシナリオ曲線の通りです。ネックとなるのは価格と通信精度で、ともにユーザー満足度は6割程度。低価格化を図り、通信の不安定さを改善することが、企業に求められています。

また、上掲の予測には含めていませんが、今後5G(第5世代移動通信システム)の普及によってさらなる超高速通信環境が実現した場合は、成長率を1.5%程度押し上げ、2021年以降には1,000万契約を超える可能性も考えられます」

個人据え置き型は、成長傾向の見通し

「一方で、個人・据え置き型利用については今後もまだ成長基調にあると考えられます。現状のユーザーの契約のきっかけの27%を占めるのが、転居。固定回線に比べ、工事が不要で月額も安価なため、転居を機に契約を改める方が多いようです。

また、“固定回線と比較してルーターを選んだ理由”というアンケートでは、価格が手頃56%に続いて、転居時も利用可能53.4%という結果に。このことから、今後も引越しすることを前提に自宅の通信環境を選択していることも明らかになりました」

目前に迫る5G時代、WiFiは生き残れる?

「2020年の5G(第5世代)スタートに先駆けて、ドコモは9月20日にプレサービスを開始。通信事業者の中には、5GがWiFiに取って代わることを危惧する方もいますが、現状では5G環境は不完全と言えます。

第一の理由は、いまだ研究途上にあるという点。5Gの高周波が人体に悪影響を及ぼす可能性があるという指摘があったり、受信アンテナの精度を高める必要性があったりと、技術的な改善が求められています。

第二に、5G対応端末の未普及が挙げられます。5Gがスタートしても、使える端末がないことには即定着することはありません。また、消費者の価格感度の高さは、モバイルWiFiルーターのアンケート結果からも明らかになっています。ですから、サービスが高速化したとしても、消費者が高価格な5Gにすぐに乗り換える可能性は低いでしょう。

以上を踏まえ、現状は5Gスタート以降もWiFi市場は持続することが見込めます。1〜2年以上かけて5Gのインフラが整い、5G対応機器が普及したのち、5Gに緩やかに移行すると予想します。

私としては、5Gサービス定着の緩衝材として、据え置き型ルーターが活用されるのではと考えています。5G電波をWiFiに互換する据え置き型ルーターが登場することで、5Gの普及を支え、次世代のネットワーク社会の形成に貢献する可能性は大いにあると思います」

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